
#インタビュー
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サントリー:125年続く「やってみなはれ」の事業家精神で社会に貢献する企業集団
はじめに
「やってみなはれ」「利益三分主義」という独自の企業文化を125年にわたって受け継ぎ、常に新しい価値の創造に挑戦し続けるサントリー。
創業者の鳥井信治郎から始まった挑戦精神は、現代においても社会課題の解決と豊かな生活文化の創造を目指す「事業家集団」として、その真価を発揮している。
事業家精神の源流:「やってみなはれ」と「利益三分主義」

挑戦を恐れない「やってみなはれ」精神
サントリーの根幹を成すのは、創業者・鳥井信治郎が掲げた「やってみなはれ」の精神だ。1899年の創業以来、サントリーは常にチャレンジ精神を忘れず「新しい価値の創造」に向かって、積極的な企業活動を推進してきた。
日本初のウイスキー事業への参入は、まさにこの精神を体現した取り組みだった。当時は無謀とも言われた挑戦だったが、「飲む場」「飲み方」を提案することで市場そのものを創り出す、まさに「無」から「有」を生む営みとして結実した。ビール事業においても、初の瓶詰め生ビールの提案や発泡酒市場の創出など、常に新市場創造への挑戦を続けている。
社会への還元を重視する「利益三分主義」
もう一つの柱である「利益三分主義」は、事業活動で得た利益を、
・「社会への還元」
・「お得意先・お客様へのサービス」
・「事業への再投資」
の三つに分けるという考え方だ。
これは単なる利益追求ではなく、企業として社会に対する責任を果たすという強い意志を示している。
創業家の鳥井信宏氏は、「企業は、株主だけの会社になりきってしまったらいけません。利潤を追求するだけで、その企業独自の社会貢献の視点が感じられない企業では意味がない」と語っており、この価値観が世代を超えて受け継がれていることがわかる。
現代に受け継がれる企業理念:「人間の生命の輝き」をめざして
刷新された企業理念とパーパス
2023年、サントリーグループは企業理念を刷新し、「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命(いのち)の輝き』をめざす」をパーパス(存在意義)として掲げた。同時に「水と生きる SUNTORY」をコーポレートメッセージに位置づけ、サントリーが大切にする思いのさらなる浸透を図っている。
この「人間の生命(いのち)の輝き」という理念は、2代目社長の佐治敬三が50年前に社是に掲げたものを現代に蘇らせたものだ。ただし、人間だけが輝くのではなく、自然や社会が輝いていなければ人間は輝けないという考えのもと、この世界の恵みを生み出す自然の生態系を守ることも重視している。
多角的な事業展開による価値創造
サントリーの事業家集団としての特徴は、その多角的な事業展開にも現れている。酒類や食品・清涼飲料事業にとどまらず、花、健康食品、外食、スポーツ、フィットネス、情報サービス、通信販売など新規分野への取り組みを積極的に行っている。さらに海外でもアジア、特に中国での事業展開やアメリカにおける展開など、グローバルな視点での価値創造に挑戦している。
社会課題解決への具体的取り組み

次世代エンパワーメント活動
現代社会における子どもや若者を取り巻く課題の複雑化に対し、サントリーは「次世代エンパワーメント活動」を展開している。デジタル化や女性の社会進出が進む一方で、貧困、不登校といった子どもにまつわる問題が深刻化していることを受け、困難に直面する子どもへの支援に力を入れている。
CSR部門では、「利益三分主義」の精神に基づき、社会の変化によって子どもたちにしわ寄せがいってしまっている現状に向き合い、企業だからこそできる支援のあり方を模索している。
環境・水資源保護への取り組み
「水と生きる SUNTORY」のメッセージ通り、サントリーは自然と水の恵みに生かされる企業として、貴重な水資源を守る活動に積極的に取り組んでいる。総合福祉施設や保育園の運営、水源涵養のための森林保全活動など、「利益三分主義」の精神を具体的な行動として実践している。
グローバルな企業理念の浸透
サントリーは「サントリー大学」を通じて、世界中の従業員に企業理念を浸透させている。開校から10年近く経つ中で、企業理念の浸透がグローバルの結束力を高めていることが実感されている。
海外の従業員も、サントリーの歴史と精神を知ることで、サントリーの一員になったことに誇りを感じ、その精神を自分の持ち場でどう体現しようか考えるようになっている。
事業家集団としての組織風土
「Growing for Good」を実現する人材育成
サントリーグループでは、社員一人ひとりが「Growing for Good」を実現する「Good Person」として成長することを重視している。社員がボランティア活動やNPOを通じた社会活動を行うことを推奨し、海外においても「Together for」の精神で地域社会への貢献を実践している。
理念浸透の多面的アプローチ
サントリーの理念浸透施策は、単なる複数施策の展開ではない。複数の社内浸透施策がそれぞれ、認知や理解、共感、コミットメントに作用し、複合的に従業員の自分ごと化を促し、自発的な行動へとつなげている。これにより、組織全体が一つの方向を向いて価値創造に取り組む「事業家集団」としての結束力を維持している。
まとめ:未来に向けた挑戦

サントリーは125年の歴史を通じて、「やってみなはれ」の挑戦精神と「利益三分主義」の社会貢献意識を核とした独自の企業文化を築き上げてきた。現代においても「人間の生命(いのち)の輝き」をめざすパーパスのもと、多角的な事業展開と社会課題解決への取り組みを通じて、真の意味での「事業家集団」として社会に価値を提供し続けている。
創業者から受け継がれた価値観を大切にしながらも、時代の変化に応じて新しい価値の創造に挑戦し続けるサントリー。その姿勢は、これからも多くの企業にとって参考となる事業家精神のモデルケースと言えるだろう。
失敗を恐れることなく、新しい価値の創造を目指し、諦めずに挑み続ける。そして事業活動で得たものは、自社への再投資にとどまらず、お客様へのサービス、社会への還元を行う。
この一貫した姿勢こそが、サントリーを真の「事業家集団」として際立たせている要因なのである。