#ケーススタディー
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西松屋に学ぶ、「ガラガラ」を強みに変えるマーケティング
少子化時代に30期連続増収を実現した価値創造戦略

少子化が進む日本において、子ども向け市場は決して追い風の市場ではありません。
厚生労働省の統計によると、日本の出生数は長期的な減少傾向が続いています。かつて年間200万人を超えていた出生数は100万人を下回り、近年では70万人台にまで減少しています。一般的に考えれば、子どもの数が減るということは、ベビー用品や子ども服を扱う企業にとって顧客そのものが減少することを意味します。
そのような環境の中で、30期連続で売上高を伸ばし続けている企業があります。
それが西松屋です。
西松屋は2025年2月期において売上高約2,000億円規模となり、30期連続で過去最高売上を更新しました。また、営業利益率も6〜7%台を維持しており、ベビー用品業界の主要企業の中でも高い収益性を誇っています。
西松屋と聞くと、
「子ども服が安い店」
「いつ行っても空いている店」
という印象を持つ人も多いかもしれません。
実際に店舗へ行くと、ショッピングモールの人気店のような混雑はありません。店内は広く、通路にも余裕があり、店員さんから積極的に声をかけられることも少ないため、「本当に儲かっているのだろうか」と感じる人もいるでしょう。
しかし、この一見ガラガラに見える店舗こそ、西松屋の競争優位の源泉なのです。
本稿では、西松屋の事例をもとに、これからの時代に求められるマーケティングについて考察します。
1. 「ガラガラ」は失敗ではなく顧客体験である

西松屋のマーケティングを語る上で欠かせないのが、「ガラガラ戦略」です。
一般的な小売業では、店舗が混雑しているほど繁盛店に見えます。レジに行列ができ、売り場に活気があり、多くの人で賑わっている状態は成功の象徴のように見えます。
しかし西松屋は、その逆を目指しています。
なぜなら、西松屋の主要顧客は乳幼児を連れた親だからです。
ベビーカーを押している親にとって、狭い通路や混雑した売り場は大きなストレスになります。小さな子どもが突然走り出したり、商品に触ったり、泣き出したりすることもあります。そのような状況で人が多ければ多いほど、親は周囲へ気を遣わなければなりません。
西松屋は、この顧客心理を深く理解しています。
だからこそ、広い通路とゆとりのある売り場を確保し、混雑しすぎない状態を意図的につくり出しています。実際、西松屋は店舗の売上が一定水準を超えると近隣への追加出店を行い、地域全体でシェアを獲得する戦略を取っています。
普通の企業であれば、一店舗あたりの売上最大化を目指すでしょう。しかし西松屋は違います。
地域全体で顧客を囲い込みながら、一店舗ごとの混雑を抑え、親子連れが快適に買い物できる環境を維持することを優先しています。
つまり、「ガラガラ」は結果ではありません。
親子連れがストレスなく買い物できる体験を提供するために設計された戦略なのです。
ここに西松屋のマーケティングの本質があります。
2. 手厚い接客よりも「気軽さ」という価値を提供している

日本の小売業では、丁寧な接客が良いサービスだと考えられることが少なくありません。
しかし西松屋の店舗では、店員さんが積極的に声をかける場面はそれほど多くありません。
一見するとサービスが少ないようにも見えます。
ところが、子育て世代の親にとっては、それがむしろ快適な体験につながっています。
子どもを連れて買い物をする時、多くの親は必要なものを短時間で購入したいと考えています。ゆっくり接客を受ける余裕があるわけではありません。
そのため、自分のペースで商品を見られる環境は大きな価値になります。
西松屋は、接客を減らす代わりに、接客がなくても買いやすい売り場づくりを徹底しています。
例えば衣料品はハンガー陳列が中心です。お客様は服を畳み直す必要がなく、サイズやデザインも確認しやすくなっています。
また、売り場の構成もシンプルです。商品を探しやすく、必要なものへすぐにたどり着けるよう設計されています。
こうした工夫は顧客にとって便利なだけではありません。
店舗スタッフにとっても作業負担を軽減する効果があります。商品の整理や陳列作業にかかる時間が減るため、少人数でも店舗運営が可能になります。
実際、西松屋の売場面積100㎡あたりの従業員数は、競合のアカチャンホンポが約1.4人であるのに対し、西松屋は約0.6人と言われています。
つまり西松屋は、接客を増やすことで顧客満足を高めるのではなく、「接客が少なくても買いやすい環境」を作ることで満足度を高めているのです。
3. 安さは値引きではなく仕組みから生まれている

西松屋の魅力として、多くの人がまず挙げるのが価格です。
子ども服は成長とともにすぐサイズアウトします。保育園や幼稚園では毎日のように汚れるため、何枚も必要になります。
そのため、多くの家庭にとって低価格は非常に重要な価値です。
しかし西松屋の強みは、単なる安売りではありません。
安く売れる仕組みを持っていることです。
西松屋は郊外ロードサイドへの出店を中心に進めています。駅前や大型商業施設の一等地と比較すると、賃料を抑えやすく、広い店舗も確保しやすくなります。
さらに店舗運営は徹底的に標準化されています。
全国で1,100店舗以上を展開しながら、正社員数は700名弱と言われています。一般的な感覚で考えると驚く数字ですが、それだけ少人数でも運営できる仕組みが整っているということです。
また、西松屋はPB(プライベートブランド)商品の開発にも力を入れています。
メーカー商品だけに依存するのではなく、自社企画商品を増やすことで価格競争力と利益率を両立しています。
競合企業と比較しても、西松屋の営業利益率は高い水準にあります。
つまり西松屋は、「安く売る」のではなく、「安く売っても利益が残る構造」を作り上げているのです。
この仕組みこそが、30期連続増収という結果を支える土台になっています。
4. 戦略とは「何をしないか」を決めることである

西松屋のマーケティングから学べる最も大きなポイントは、「何をやるか」よりも「何をやらないか」が明確なことです。
多くの企業は顧客満足を高めるためにサービスを追加しようとします。
接客を強化する。商品数を増やす。イベントを開催する。店舗を華やかにする。
もちろん、それが有効な業態もあります。
しかし西松屋は違います。
手厚い接客を追求しません。
必要以上に商品数を増やしません。
店舗を混雑させません。
売り場を複雑にしません。
その代わりに、「安く」「早く」「気軽に」「ストレスなく買える」という価値に集中しています。
経営学者マイケル・ポーターは、「戦略とは何をしないかを決めることである」と述べています。
西松屋はまさにその考え方を体現しています。
すべての顧客ニーズに応えようとするのではなく、子育て世代が本当に求めている価値を見極め、そこに経営資源を集中しているのです。
だからこそ、少子化という逆風の中でも独自のポジションを築くことができているのでしょう。
5. 私自身の営業経験から学んだこと

この考え方は、私自身の営業経験にも重なります。
以前の私は、「良い商品であれば売れる」と考えていました。品質が良く、価格も適正で、機能面でも優れていれば、しっかり説明することでお客様に価値が伝わると思っていたのです。
しかし実際には、思うように成果につながらないこともありました。
当時を振り返ると、私は商品の魅力を伝えることばかりに意識が向いていました。一方で、お客様がどのような課題を抱えているのか、なぜその商品を探しているのか、本当に求めているものは何なのかという視点が不足していたように思います。
そこで営業のやり方を変えました。
商品説明をする前に、まず相手の話を聞くようにしたのです。
どのような状況で困っているのか。なぜ今その商品やサービスを必要としているのか。理想としてどのような状態を実現したいのか。
そうした背景を理解した上で提案すると、同じ商品であってもお客様の反応が大きく変わりました。
これは西松屋の考え方にも通じるものがあります。
一般的な小売業の常識で考えれば、店員を増やし、接客を強化し、商品数を増やした方が顧客満足度は高まるように見えます。しかし西松屋は、その常識ではなく顧客の本音に目を向けました。
子育て中の親が本当に求めていたのは、豪華なサービスではありません。
子どもを連れていても気兼ねなく買い物ができること。必要なものが分かりやすく並んでいること。価格を気にしすぎず購入できること。そして短時間で買い物を終えられることでした。
西松屋は、その本音に徹底的に向き合った結果、独自のポジションを築いています。
営業もマーケティングも本質は同じです。
自分たちが伝えたい価値を押し出すのではなく、お客様が求めている価値を理解すること。その上で最適な形で届けることが成果につながるのだと、私は西松屋の事例から改めて感じました。
6. マーケティングは足し算ではなく引き算でもある

西松屋の事例から見えてくるのは、マーケティングは必ずしも足し算ではないということです。
サービスを増やすことだけが価値ではありません。
顧客が求めていないものを削り、本当に必要なものだけを残すことも重要です。
西松屋は、「ガラガラな店舗」「少ない店員」「シンプルな売り場」という、一見すると弱みに見える要素を強みに変えました。
その結果、売上高約2,000億円、30期連続増収という成果につながっています。
少子化という逆風の中でも成長を続ける理由は、顧客が本当に求めている価値を見抜き、それを徹底して磨き続けているからでしょう。
これからの時代に問われるのは、
何を売るのか。
どんなサービスを増やすのか。
だけではありません。
誰のために価値を作るのか。
そのために何を残し、何を捨てるのか。
そして、その価値を継続的に届ける仕組みをどう作るのか。
西松屋のマーケティングは、その問いに対する一つの答えを示しているように感じます。
7.まとめ

西松屋の事例から見えてくるのは、マーケティングの本質は「目立つこと」ではなく、「顧客が本当に求めている価値を理解すること」にあるということです。
一般的な小売業の常識で考えれば、店舗は混んでいる方が良い、接客は手厚い方が良い、商品数は多い方が良いと思われがちです。
しかし西松屋は、その常識を疑いました。
子育て世代のお客様にとって本当に重要なのは何かを考えた結果、「ガラガラで買いやすい店舗」「気を遣わずに買い物できる環境」「いつでも安く買える安心感」を提供することに集中したのです。
そして、その顧客価値を支えるために、標準化された店舗運営やPB商品の強化、ローコストオペレーションといった仕組みを構築してきました。
だからこそ、西松屋は少子化という逆風の中でも、売上高約2,000億円、30期連続増収という成果を実現しているのでしょう。
私自身、この事例を通じて改めて感じたのは、営業もマーケティングも本質は同じだということです。
自分たちが売りたいものを押し出すのではなく、お客様が本当に求めている価値は何かを考えること。そして、その価値を最も分かりやすく、最も届けやすい形で提供することが重要なのだと思います。
これからの時代に問われるのは、「何を売るか」だけではありません。
「誰のどんな課題を解決するのか」
「どのような体験を提供するのか」
「その価値を継続的に届ける仕組みをどう作るのか」
西松屋のマーケティングは、その問いに対する一つの答えを示しているように感じます。
