【コモディティ市場でブランドをつくる】築地銀だこのマーケティング設計

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【コモディティ市場でブランドをつくる】築地銀だこのマーケティング設計

群馬県で誕生した築地銀だこは、今や国内で広く親しまれるたこ焼きブランドへと成長しました。

店舗数は全国規模に広がり、海外にも展開。特徴は、ひと口目で分かる外側の香ばしさと、中のとろみ、そしてタコの弾力が同居する独特の食感です。年齢や国籍を問わず支持される理由は、単に“おいしい”という一言に回収されない、積み上げ型の設計にあります。

このブランドの奥にあるのは、創業時から掲げてきた「たこ焼きを通じて、ほっとする時間と笑顔の団らんを届けたい」という想いです。

そして、その理念を“毎日の現場”で形にしているのが、店頭に立つ焼き手=職人の存在だと言えます。今回は、銀だこの味を支える技術・文化・挑戦を軸に、銀だこらしさの正体に迫ります。

1. ルーツは焼きそば屋「食で人を笑顔にしたい」から始まった

銀だこの背景には、ホットランドの原点である焼きそば店の歴史があります。

創業者が大切にしていたのは、食べ物そのもの以上に、食卓(あるいは食の場)で生まれる笑顔でした。

人が集まり、表情がやわらぎ、会話が生まれる。そうした光景への実感が、地域に根ざした社会貢献にもつながる事業の根にあります。

その後、お客様の声に応える中でメニューが増え、たこ焼きがラインナップに加わります。そこで訪れた転機が「たこ焼きに絞る」という意思決定でした。

やるなら日本一を目指すという覚悟のもと、関西での学びを重ね、素材理解のために市場へ足を運ぶなど、準備を積み上げた上で1997年に1号店をオープン。

さらに都心出店や業態拡張(たこ焼きをつまみにお酒を楽しむスタイル)など、節目ごとにアクセルを踏みながら、食を通じた社会貢献を意識しつつ全国へと拡大していきます。

2. 銀だこが強い理由は「工程を雑に扱わない」こと

銀だこの味は、魔法のレシピ一発で決まるものではありません。むしろ真逆で、たこ焼きを構成する要素を一つずつ丁寧に整え、合算で完成度を上げる発想が根底にあります。

おいしさは、鉄板の設計段階から作られている

焼き上がりに直結する鉄板は特注仕様。熱の伝わり方や表面の仕上げ方に工夫を入れることで、油がなじみやすくなり、あの“外側のパリッと感”が出やすくなる。
つまり銀だこは、味の勝負をスープやソースだけに限定せず、道具の設計から食感を作りに行っているのです。

素材も「全部同じ」ではない

タコは産地を固定せず、その時々で条件の良いものを選ぶ。さらに象徴的なのが、青のりを“同じ青のり”として扱わず、中に入れるものと仕上げに使うものを分けるという考え方。熱の入り方や香りの立ち方まで逆算して、役割を与えています。

加えて、舟(容器)にも意味がある。余分な水分・油分を吸収しやすい素材を選ぶことで、最後の一口まで食感が崩れにくい。
こうした細部の積み上げが、たこ焼き一舟の体験を底上げしています。

3. それでも最後は「人」手焼きを守り続ける本当の理由

銀だこを語るなら、やはり外せないのが手焼きです。
焼きは、同じ材料でも結果が変わる繊細な工程。火の入り、返しのタイミング、熱の回し方次第で、食感も香りも変わってしまいます。

だからこそ銀だこは、効率化が進む時代の中でも「手焼き」を捨てない。ロボット導入の検証はしたとしても、結論として目指す品質に届かない!という発想が出てくるのは自然です。現場ではマニュアルだけでは拾いきれない変数が多いからです。

  • 生地の量の微調整
  • タコの状態
  • 気温や湿度
  • 焼き上げの“今日はここまで”の見極め

こういった判断は、結局のところ人の感覚と気配りが担う領域です。銀だこにとって職人は、単なる作業者ではなく、味を完成させる“最後の工程”そのものなのです。

4. 技術を属人化させない。理念と文化で「同じ品質」を作る



理念と文化で「同じ品質」をつくる設計

手焼きは銀だこの大きな強みです。一方で、個人の腕に依存しすぎると「人によって品質がブレる」というリスクも生まれます。
銀だこが選んだのは、職人の技を個人任せにせず、理念と文化によって共通化し続けるというアプローチでした。

ポイントは、理念を単なるスローガンで終わらせないこと。
日々の仕事の起点に理念を置き、現場から本部まで同じ考え方を共有することで、焼き手が変わっても目指す体験の方向が自然と揃うよう設計されています。

接客においても同様です。
商品を渡す瞬間の一言を大切にし、テイクアウト中心でありながらも、短い接点の中に「心が通う余白」を残す。食べるその後の時間まで想像したコミュニケーションが、体験として組み込まれています。

「職人」を資産として設計するという発想

銀だこが一貫して守り続けているのが手焼きです。
一見すると非効率に見えますが、人による微調整で日々の条件差を吸収し、品質を安定させられる。さらに、焼き手そのものがライブ感を生み、技術や所作がブランドのストーリーとして蓄積されていきます。

重要なのは、これらの価値を属人化させない点です。
理念共有や研修を通じて、「誰が焼いても、銀だこらしい体験になる」仕組みをつくっている。
銀だこは、職人を個人の才能ではなく、ブランドの資産として設計しています。

5. 競い合いが、文化になる。社内コンテストの意味

職人の技と心を磨く場として、社内コンテスト(例:あつあつグランプリのような取り組み)が機能している点も象徴的です。評価されるのは技術だけではなく、提供時の所作やお客様との関わり方も含まれる。


つまり銀だこは、商品品質を上げるために職人の誇りが高まる仕組みを作っているわけです。

目標があるから練習が生まれ、練習が品質を押し上げ、品質がブランドを強くする。ここにきれいな循環があります。

6. 「職人×体験設計」で飽和市場を勝ち抜くマーケティング戦略

たこ焼きは、日本中どこにでもある。
屋台、商業施設、スーパーの惣菜、冷凍食品。
参入障壁は低く、価格競争に陥りやすい典型的な成熟カテゴリーです。その中で、1997年創業の築地銀だこは、全国約500店舗規模まで拡大し、海外展開まで実現しています。

なぜ銀だこは、 「たこ焼き」というコモディティ商品で、ここまで強いブランドを築けたのでしょうか。その答えは、広告や奇抜な施策ではなく、体験設計と組織設計にあります。

市場前提:たこ焼き業界は「差別化が最も難しい市場」



マーケティング視点で見ると、たこ焼き業界は以下の特徴を持ちます。

  • 味の差が伝わりにくい
  • 原価構造が似通いやすい
  • 人手不足の影響を受けやすい
  • 値引き・セット販売に流れやすい



多くの店が「安くする」「変わり種を出す」「SNS映えを狙う」に向かいがちですが、これらは模倣されやすく、長期優位になりにくい。銀だこは、ここで別の勝ち筋を選びました。

銀だこのポジショニング

「たこ焼きを売る」のではなく、「焼いている体験を売る」

銀だこの最大の特徴は、 商品価値を“味”だけに置いていない点です。

  • 鉄板の音
  • 立ち上がる湯気
  • 職人の手さばき
  • 焼き上がるまでの待ち時間

これらすべてを含めて、購買体験として設計しています。

つまり銀だこは、たこ焼き屋ではなく「ライブで完成するフード体験」として自社を定義しています。この時点で、スーパー惣菜・冷凍食品・屋台型低価格店とは
戦う土俵がズレているのです

4P分析で読む、築地銀だこのマーケティング構造

① Product(商品)|核は「食感」

銀だこの強みは、外はパリッ、中はトロッ、たこはプリッという食感です。
重要なのは、これが秘伝のレシピではなく、工程設計の積み重ねで生まれている点です。

  • 特注鉄板で熱の入り方をコントロール
  • 素材ごとに役割を分ける設計
  • 焼き上げは人が最終調整

商品を「完成品」ではなく「完成までのプロセスごと」設計していることが、簡単に真似できない理由です。

② Price(価格)|高価格帯でも成立する理由は「納得感」

銀だこは、たこ焼き業界の中では決して安くありません。
それでも支持されるのは、

  • 目の前で焼く
  • 出来立てを渡す
  • 香りや音で期待を高める

といった体験そのものが、価格の説明になっているからです。
原価ではなく、体験量で価格を正当化しています。

③ Place(流通)|「衝動買い×高回転」に最適化

主な出店先は、駅前・商業施設・フードコート。
目的来店よりも、「ついで買い」が起きやすい立地を選んでいます。

たこ焼きは、事前に決めて食べに行く商品ではありません。
だからこそ、見た瞬間に食べたくなる体験が重要で、立地戦略と商品特性がうまく噛み合っています。

④ Promotion(プロモーション)|最大の広告は「店頭」

銀だこは、言葉で価値を語りすぎません。
店頭で「うまそう」と感じさせる体験を、先に用意しているからです。

  • 焼いている様子
  • 立ち上がる湯気
  • 鉄板の音
  • 自然にできる行列

これらが同時に立ち上がり、ポスター以上の説得力を持つ販促装置になります。
広告費で期待値を上げるのではなく、現場の体験密度で納得感をつくる。
どの店舗でも再現できる、合理的なマーケティング思想です。

8. 「マーケティングを知って変わった視点」私の体験

ケーススタディ:料理教室

築地銀だこの取り組みをマーケティングの視点で捉え直したとき、私自身の「ブランドを見る目」は大きく変わりました。そしてこの学びは、机上の話ではありません。

大阪でインバウンド向けの料理教室のお店を経営する中で、私はこの考え方を実際に現場へ落とし込み、成功も失敗も経験してきました。

それまで私は、商品価値を「味」「価格」「新商品の面白さ」といった分かりやすい要素で判断していました。しかし、銀だこの事例を通じて、ブランドの強さはそうした表層では決まらないことを実感しました。

銀だこが売っているのは、たこ焼きそのものではなく、鉄板の音・湯気・焼き手の手さばき・待ち時間まで含めた“体験”です。つまり「商品」ではなく、「完成していくプロセス」そのものが価値になっていました。この視点を知ったとき、私は自分の事業にも同じ問いを立てるようになりました。

「うちは何を売っているのか?」と。

①失敗体験

実際に私は一度、集客を意識しすぎて価格を下げたことがあります。
しかしその時に限って、現場のスタッフ教育を後回しにしてしまい、接客や場の雰囲気が安定せず、結果的にお客様から悪いレビューをもらいました。

そのとき痛感したのは、価格を下げることよりも、体験の質が下がることの方がダメージが大きいということです。インバウンドのお客様は特に、「安いかどうか」よりも「期待した体験ができたか」を見ています。体験が崩れた瞬間、レビューで一気に信用が落ちる現実を味わいました。

②成功体験

スタッフ採用において、私は当初「英語が話せること」を重視していました。
しかし現場を回す中で、英語力以上に大事なのは、場を盛り上げられる人、楽しませられる人だと気づきました。実際に、英語が完璧でなくても笑顔で盛り上げ、リアクションが大きく、空気を明るくできるスタッフがいるだけで、お客様の満足度は大きく上がりました。そして私は、価格を上げることに対しても怖さがなくなりました。
むしろ「高いけど価値がある」と感じてもらえる体験を作れれば、価格は正当化できる。

結果として、価格がかなり高いにも関わらず、非常に良いレビューを多くいただけるようになりました。

この経験を通じて私は、マーケティングとは「売る工夫」ではなく、
“選ばれ続ける理由を現場で設計すること”だと捉えるようになりました。

築地銀だこのように、味だけでなく工程・人・空気感まで含めて体験を設計する。
その積み重ねが、価格競争ではなく「ブランド」で選ばれる状態をつくるのだと理解できました。

これからも私は、表面の施策ではなく、 「どんな体験を、どの工程で、誰が支えているのか」という視点で、自分の事業を磨き続けていきたいと思います。

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